こんにちは江戸川区瑞江のステラ矯正歯科です。
本日のコラムでは、矯正治療で歯を動かす際に重要な考え方となる『固定(アンカレッジ)』についてお伝えします。
歯を動かす矯正において「固定」と聞くと、なんだか正反対の動きで不思議に思われるでしょう。少し難しい考え方ですが、わかると矯正治療についてより理解が深まります。ぜひ付いてきてください。
作用反作用の法則
そもそもの知識として、さまざまな装置で歯を動かす際、歯に対しての矯正力のかけ方は「作用反作用の法則=綱引き」が基本にあります。矯正治療ではこういった力のかかり方がとても重要です。
物体Aが物体Bに及ぼす力を「作用」、物体Bが物体Aに及ぼすのを「反作用」とすると、作用があれば必ず反作用が生じており、その大きさは等しく方向は反対です。綱引きをイメージしてもらえると良いでしょう。この法則が矯正治療で歯を動かす際にも起こります。動かしたい歯に力を作用させると反作用の力がかかり、別の歯まで動かしてしまうのです。
矯正治療における固定
歯を動かす矯正力を歯やあごの骨に作用させる場合、その力の反作用に耐える抵抗源を「固定」(アンカレッジ)といいます。
実際の臨床では、患者さんごとに必要資料を分析し診断したのち、どのように固定して目的の歯を動かすか選択、決定していきます。ここをしっかりと考えておかないと予想しない歯の動きによって期待する固定の効果が得られなくなってしまいます。
具体的には加える力の反作用を「固定」が受け取ることで、固定側にも何らの反応が生じる可能性を認識した上で、適切な矯正力を加えられる装置や矯正用パーツを選択していきます。
反作用によって固定(主に歯)の移動が起こることを利用する場合(前歯に隙間が空いている場合、この2つの歯に力をかけるとそれぞれが歩みよって空隙が閉じます。こういった場合はこの移動になります。)や、固定が全く動かない方がいい(出っ歯を改善する際、抜いた隙間を前歯と奥歯の綱引きで改善していきます。奥歯が負けて手前にズレが生じてしまうと前歯が下がる量が減ってしまうので奥歯は動かしたくないという場合)など、患者さんの個々の歯列咬合によって、固定に求める程度は様々です。
つまり分析診断時に、「加える矯正力と、その力に抵抗し受け止める部分(固定)をどこにどのように設定するか」が大切となります。
抜歯・非抜歯における固定
歯を抜くか抜かないかでも選択される「固定」の方法は大きく異なってきます。また、抜歯して治療する場合、前歯をどのくらい後方に下げたいかによって、「固定」の程度は異なってきます。
先ほど出てきたように、歯の移動は綱引きで起こります。出っ歯の程度が強く、抜歯でできた隙間に前歯を下げるのに使いたい場合は、奥歯は1mmも前に動いてはいけないと考えます。そのため抵抗源となれる強力な「固定」が必要となります。
その場合、矯正用スクリューや顎外装置といった強力な固定を用いて矯正治療を進めます。
固定の方法
固定の方法は大きく4つに分けられます。目的の歯とどこを綱引きさせるかを考えていきます。
- 同じあごの中に固定を設定する(顎内固定)
例えば、パワーチェーンと呼ばれるゴムを歯と歯に繋いで引っ張ることで歯の隙間を閉じるように移動させるとき、同じあご内の固定となります。
移動したい歯・固定歯というように、歯同士で「作用反作用の法則」が成り立つ場合、双方の歯が移動し合う関係となることが大半です。そうした移動は、積極的に矯正治療に活用されていきます。
- 上下のあごを固定源として設定する(顎間固定)
例えば、上下のあごの間で、顎間(がっかん)ゴムをかけるとき、対となるあご同士が固定となります。歯同士でゴムをかけるため、①にも書いたように、双方の歯が移動し合う関係となります。
- あごの外に固定源を設定する(顎外固定)
歯やあごの骨に矯正力を加えるとき、頭部やおでこ・あごなどの口の外に固定を求める方法です。強い矯正力に耐えられる固定となるため、成長期の子供の顎整形力に対する固定として主に用いられます。
「顎整形力」とは、あごの成長を促進または抑制することで、三次元的な骨格的不調和を改善することをいいます。具体的にはヘッドギアやフェイシャルマスクと呼ばれる装置が使用されます。
- 矯正用アンカースクリューを利用する
歯槽骨やあごの骨に金属のネジを固定し、それを絶対的な固定として歯を移動させます。現在、スクリューに固定を求める方法は世界的にスタンダードです。その理由として、固定を歯に求める場合よりも確実なのと、顎外固定装置や顎間ゴムなどの使用協力を患者さんに求めずに済むことが挙げられます。
欠点として、麻酔してスクリューの植立が必要になること、スクリュー周囲が不潔にならないようにセルフケアが必要となることが挙げられます。
矯正用アンカースクリューによる固定
スクリューを固定として使用するまでの注意点は以下のようになります。
- 歯科用の麻酔を使用し、可能な限り無痛下でおこないます。当院では麻酔が切れる前に痛み止めを服用していただいています。また麻酔が切れたのちに痛みがある場合は痛み止めをお渡ししています。ただ、多くの方が追加で痛み止めを服用されることはありません。
- 植立後の注意点として、指で触る・電動歯ブラシを当てる・硬い食べ物やガムを食べるといった行為は、スクリューに力がかかってしまい脱落の原因となります。
- 植立当日は、スクリュー周囲のブラッシングは避けて洗口剤を使用しましょう。
その後は柔らかいブラシを軽く当て歯垢(プラーク)を落とすようにしましょう。
ある論文では、スクリューが生着する成功率は80%程度と記されています。
生着しなかった場合、再植立しますが、骨質・体質・生活習慣により、2~3%程度に生着が難しい方がいます。該当する場合はスクリューを使用しない治療方法に変更することになります。
まとめ
矯正治療における固定についてお話ししてきましたが、いかがだったでしょうか。
様々な矯正器材の登場・進化により、それらを用いておこなわれる矯正治療の技術も更新され続けています。
こうした時代の流れを日々の診療に組み込み、還元できる医院づくりを目指していきたいです。